いのち
全身の細胞が開いていく感覚を私は忘れない
なにものにも追い越される時の、高揚感ともいえない胸の高鳴りも
金切り声をあげているのは血を分け合った兄弟たち
あやすことも忘れて泣き疲れた産みの親たち
帰るところはあるのですかと唐突に聞かれた質問に対して
しわがれた老女の中心を指さして
私の帰るべきところは大地ですと
そう答える女を見ている
すると私の目はたちまち黒い雲に視界を遮られ
いままで見たことも聞いたこともなかったような
世界へと誘われていく
足取りは軽く
きっと私の命もそのように軽いのだ
先にこの世に生をうけたものたちはどうなったのかを
知る由も術もない
ざらついた肌をさらけ出し
そこにいっぱいの日の光を受け
何も覚えていない
赤子のような顔で
おはよう、と言うだけなのだ
血を分け合った兄弟たちよ
私のお腹は暗かったのか
生きている鼓動は
聞こえていたのか
そしていずれ、土に帰って生くのか
(2008.2.8)