雫が垂れると、和紙には一つ染みができた。
腕が、手が、指先までもが、震えているのは何故だろう。
数分前の言いようもない優しさに包まれたような錯覚と、その後に脳裏に鳴り響くキーンという乾いた音。
全てがどす黒い大きな穴に吸い込まれていくような気がする。
本当は、「みんな嘘だ」と言って、あなたに黙って抱きしめて欲しかった。
目の前のベッドに無造作に置かれた人形には、血が流れているような気がした。
もしかしたら、むくっと起き上がって、私に微笑みかけてくれるような気がした。
しかし実際それは冷たいただの人形でしかなく、もうとっくに血など通っていなかった。
何日か前に涙は枯れ果てた。でも翌日になると目が腫れている。
夢の中に出てくるあの影の正体は。あの恐ろしい影の正体は一体何なのか。
染みがどんどん広がっていく。そして、中心から徐々に乾いていく。
まだ「未練」という言葉は使っていない。使う予定もいまのところない。
ただただ泣きたいけれど、もう涙はとっくに枯れていて、それでも泣きたいなどと思っていたりする。
明日はどんな形でもやってくる。
人はそれはとても素敵なことだという。
何もかも思い通りにならないもどかしさ。
体の細胞ひとつひとつにこみあげてくるこの感覚は一体何なんだろう…
雫が垂れて、染みができる。
染みは、和紙を広がり、中心から乾いていく。
全てが乾いた後にそこにあったのは、ただの凸凹だけだった。
2014.10.26 作
2017.10.29 加筆